ピアノを辞める時

私の教室では、幼児期の読譜の指導に特に力を入れています。

 
①導入期は絵音符を使い、3歳のお子さんでも音符に親しみを持ちながら、手を見ないで弾くことを身に付けます。
これは連続置き換え作業といい、とても大切な能力です。
曲が長くなってきた時、手を見ないで弾けなければ大変苦労をすることになります。
 
②次に、パターン認知能力を使い、どみそ、そしれ、ふぁらどの和音の固まりを使ってト音記号、ヘ音記号の五線楽譜を学びます。フラッシュカードやおはじきを使い、数え読みではなく記号のように視覚的に覚えます。
 
③その後は、本当の音符を学び、カードやiPadを使ってゲームなどで楽しく、音符を速く読める力を付けます。
 
ここまでくるのに平均2、3年以上かかります。初めから音符を使う指導法に比べ、お母さん方はもどかしい思いをされるかもしれません。
 
どうしてそこまで時間をかけて読譜の指導をするのかといいますと、生徒たちに自分の力で楽譜を読めるようになって欲しい、本当の音楽の基礎力を付けて欲しいからです。
 
約20年の指導の中で残念ながら、ピアノを辞めてしまったお子さん、また他の先生の所から移って来て下さったお子さんもいます。
生徒さんが辞める時、ほとんどの場合、寂しさと後悔と謝罪の気持ちで一杯になります。
この子にもっと何かしてあげることはできなかったのか。
ごめんなさい。
 
どうしてピアノを辞めることになったのか・・・
 
色々なケースがありますが、多くの場合は練習が苦痛だからです。
小さい頃はさほど問題ではありません。
お母さんが練習を手伝ってくれたり、曲が短いのですぐ覚えて弾けたり。
読譜が苦手なお子さんは、たいてい耳がとても良く、また覚えるのも得意という素晴らしい才能を持っています。ある程度までは上達が早いので、読譜が苦手なことはあまり問題に思われません。
大きくなったら読めるよと思われています。
 
さて彼らは、高学年になって塾や部活などで忙しくなります。せっかく寛いでいる時にお母さんに怒られ、ピアノに向かいます。
せっかく弾こうと思ったのに、スラスラと音符が読めないと弾くのにとても苦労しますし、すぐに弾けない練習が楽しいはずがありません。
そしてまたピアノに向かう気にもならず、ある日、
 
「そんなに練習しないなら、ピアノを辞めなさい‼︎」となるのです。
 
読譜が簡単にできれば練習が楽しくなり、楽しくなれば上手になる。
どのくらいのスピードで読める必要があるかというと、今、この文章を読んでいるくらいの速さです。
しかもピアノの楽譜は、複数の音を左右の手同時に読むのです。
他にも強弱記号や指番号など、たくさんの記号を同時に処理しながら、10本の指をバラバラに動かすという神業のようなことを行います。
ね、ピアノを弾くという「すごいこと」に子どもたちはチャレンジしているでしょう。
 
小さな生徒たちが、「この曲宿題じゃないけど、弾きたいから弾いて来たよ」と色々な曲を聴かせてくれる日を楽しみにしています。
そして、いつかレッスンを卒業する日が来ても、一生ピアノを弾くのに困らない力を付けてあげたいと思っています。